既にご開業の方
福利厚生
職員の働きがいの向上のため
福利厚生を利用し病医院の利益を還元
退職金制度と福利厚生
スタッフの処遇として給与・賞与のつぎに検討すべきテーマは退職金でしょう。医療機関で退職金制度を導入しているところは、「求人の労働条件に『退職金制度あり』と書けるから」ということを理由に挙げるケースが多いように思います。それだけ、退職金制度は人材獲得に寄与するということなのでしょう。
そもそも、退職金とはいったい何なのでしょう。一般的には、
- 1.老後の生活保障
- 2.賃金の後払い
- 3.功労報奨
という意味合いで支給されるケースが多いようです。では、ご自身が院長を務める病医院ではいかがでしょう。このような意味合いで辞めていくスタッフに退職金を払いたいですか?
- ①いまや自己責任の時代です。果たして辞めていくスタッフの老後のために勤務先が老後の資金を蓄え、支給する必要がありますか?
- ②通常退職金は、懲戒解雇するスタッフには支払いません。賃金の一部を退職金として後払いするということは、「在職中に悪事を行なえば、留保している残りの賃金を支払いません」ということです。自院のスタッフのなかに将来懲戒解雇されそうな人はたくさんいますか?
- ③非常に長い期間ご自身のもとで頑張って働いてくれたスタッフには、やはり心から「ありがとう、お疲れさまでした」の言葉と退職金を贈りたいですよね。では、自院のスタッフのなかにそれほど長期間にわたって勤務してくれそうな人はたくさんいますか?
①~③の質問にすべて「ノー」と答えられた方は、自院に退職金制度がほんとうに必要かどうか考えられたほうがいいでしょう。
もちろん、「リクルートに寄与する」という理由だけで退職金制度を導入することは間違いではありません。また、在職中に何らかのトラブルを起こしたスタッフが退職する際には、退職金は「手切れ金」として機能することがありますので、「勤続期間が短い」=「退職金不要」とも言い切れません。
一度退職金制度を導入すると、それをなくしたり減額したりすることは基本的にはできませんので、何のための制度なのか事前にしっかりと考えを整理したうえで導入されることをお勧めします。そうしないと、辞めてしまうスタッフに意味もなく大金を使うことになってしまいます。どうせ使うなら、もっとスタッフの勤労意欲が向上するようなところに使いたいですものね。
福利厚生のありかた
さて、そこで福利厚生の話です。
職員満足向上のために、病医院の利益をスタッフに還元しようというのはとても健全な考え方だと思います。けれど、給与等は基準に沿って適正に上げていくことが大切なのです。無秩序な上乗せをひとたび行なってしまうと、その後従来の水準に戻そうとするときに不満を感じるスタッフが出てきてしまいます。つまり、スタッフに喜んでもらおうと思ってしたことが、長い目で見るとかえって不満の種になってしまう、ということです。
それでは、どのように利益をスタッフに還元したらよいのでしょう。その選択肢の一つが福利厚生です。
福利厚生はスタッフ個人の課税対象になりませんので、たとえば1人60,000円の社員旅行に出かければ、スタッフは60,000円満額分の利益を受けられることになります。それに対し、月5,000円昇給させると年間昇給額は60,000円となり、一見社員旅行と同額のように見えます。けれど給与は課税されますので、その分目減りしてしまうのです。所得税と住民税の合算税率が最低の15%であったとすると9,000円手取りが減少します。また、給与は雇用保険や社会保険の加入者であれば、当然保険料も負担しなければいけませんし、病医院負担も発生してきます。
福利厚生費の活用
昼食も夜食代も、
条件を満たして福利厚生費に
食事代が経費となり、職員にとって非課税となる税務上の取扱いを説明していきます。
①昼食を職員に支給するとき
職員に昼食を支給すると、経済的利益とみなされ給与等になり、源泉所得税の対象になります。ただし、その食事代の50%以上を職員が負担し、かつ、医院側の負担が月額3,500円以下であれば所得税は課されません。
例1:1か月の食事代6,000円 職員の負担額3,000円 医院負担額3,000円
→ 職員の課税なし、3,000円は福利厚生費
例2:1か月の食事代6,000円 職員の負担額2,500円 医院負担額3,500円
→ 職員の課税あり、3,500円は給与として課税対象
②宿日直や残業の職員に夜食を支給するとき
所定労働時間(通常の勤務時間)以外に宿直や日直、残業をした職員に対して、これらの勤務をするための食事の支給については源泉所得税は課税されません。ただし、夜食代として現金を支払った場合は、給与所得に加えられ源泉徴収が必要になります。
例1:夜食代を直接本人へ支払う
→ 夜食代は職員の給与となり課税対象
例2:夜食代を医院が直接飲食店へ支払う
→ 職員の課税なし
③夜勤者(深夜勤務者)に夜食代を支給するとき
深夜勤務1回につき300円以下の支給については、源泉所得税は課税されません。なお、深夜勤務とは夜10時から朝5時までを含む勤務をいいます。
上記①から③の取扱いによる金額は、いずれも消費税相当額を除いた額です。
このように医院にとっては同じ経費として支払う場合でも、給与になるケースと福利厚生費になるケースに分かれます。職員にとっては、給与支給になれば所得税が課せられるだけでなく、毎月の社会保険料である健康保険(協会けんぽ)、厚生年金保険、雇用保険、これらすべての保険料アップにつながります。さらに給与課税されるということは、翌年の住民税にも響いてきます。
食事の支給が福利厚生費とみなされるよう、税務上のこれらの要件を把握し、スタッフにも、この要件についてしっかり理解してもらいましょう。