標準化と多様化を両立~
「クリティカルパス」最近よくこの言葉を耳にします。国が進める「働き方改革」を推進するための生産性向上策として導入する企業が増えているためです。クリティカルパスは、もともとアメリカの工業界で1950年代に導入された管理手法で、最小のコストで最大の質を上げるための手法として普及した考え方です。建設業界はこの手法をいち早く導入し、通常略してCPM(クリテイカル・パス・メソッド)と呼び、コストと所要時間の関係から最適工期を求める管理手法、具体的にはネットワーク工程表として広く用いております。
医療現場では、これを「クリニカルパス」と呼びます。特に急性期病院などで多く導入されています。具体的には、患者が入院してから退院するまでの期間を予め設定し、その間にどの様な検査や手術があり、検査後や手術後にいかなる処置や経過観察が必要になるかを計画します。医師・看護師・薬剤師等、医療従事者毎に必要工程を具体化します。特にDPC(包括医療支払い制度)を導入する急性期病院において有効な管理手法になります。医療業界においては医師・看護師等の人材不足は構造的課題であります。DPC導入病院では、出来高払いから包括払いへと制度が変わり、病院利益を上げるためには、無駄のない効率的システムが必要になります。クリニカルパスとは「患者様を効率よく最短で回復退院させる」病床回転率を上げるためのシステムであるとも云えます。
医療現場における生産性向上を推進するために有効な手法であるクリティカルパスですが、患者への個別ケアの提供が疎かになる傾向があること、病状の変化が少ない慢性期の患者や複数の疾病を抱える高齢者医療には不向きのシステムであること等、パスの推進を阻む要素が医療を取り巻つく環境に存在する現状もあります。
少子高齢化が急速に進む中、医療保険と介護保険は融合・連携の流れがより明確になります。膨大な社会保障費の削減は喫緊の課題であることは言うまでもなく、医療業界も更なるの標準化・効率化が求められます。
病院に掲げてある理念に多くみられる言葉に「患者本位の医療」とあります。患者や家族の多様化するニーズに個別に対応することは、医師や看護師の負担になることも少なくありません。過度なサービス提供が、医療の非効率化や不合理化に繋がり、クリニカルパスを破綻させるケースもあります。
最小の資源で最大の患者満足を得る。標準化と多様化、相矛盾する両者を両立させるシステムとして「クリニカルパス」の構築を行わなければなりません。
平成29年10月20日 医療タイムス掲載