相続対策、遺言の代用~民事信託の活用も~
平均寿命が長くなり、国民の4人に1人は65歳以上の高齢者という時代になりました。高齢者のうち7人に1人、400万人以上は認知症と言われておりますが、相続実務において認知症というのは大きな問題の一つです。
相続が発生すると、相続人全員の話し合いによって誰が何を相続するかを決めていきますが、認知症の方には話し合いが認められないことがあります。そのような場合は成年後見人や特別代理人と呼ばれる代理人が協議を代わりますが、少なくとも法定相続分をその認知症の方に相続させるというのが原則になります。例えば認知症の配偶者を残して亡くなった場合、配偶者には1/2の法定相続分があるので、子どもが多くの割合の財産を相続したくても、全財産のうち半分は配偶者に相続させなくてはなりません。
認知症のように判断能力がないとみなされると、生前贈与や遺言といった相続対策も認められません。つまり、相続対策は認知症になる前にしなければいけません。遺言があれば遺産分けの話し合いは必要ないのでスムーズな相続が期待できますが、子どもから親に対して遺言を勧めるのは少し勇気がいると思います。そこで、遺言の代用として「民事信託」を活用する方法を紹介します。
信託とは信頼できる人に財産を託し、決められた約束に従ってその財産の管理・処分などを行う法律関係をいいます。存命中親が使い続ける財産であれば、その管理を子どもに任せ、死亡後にその子どもに渡すという約束をすれば、遺言と同じ法律効果が発生します。この契約時には税金は発生しません。親が亡くなった時に子どもが受け取るため、ここで相続税が課税され、小規模宅地の特例など相続税法上の特例も受けることもできます。親や兄弟が認知症になってしまっても、予め信託契約が結ばれている財産については遺産分けの手続きが不要になり、無用なトラブルを回避することができます。遺言を書いてほしいと頼むより、信託契約を結ばないか、と提案する方が、心理的なハードルは下がるのではないでしょうか。民事信託の制度を使えば、他にもいろいろな相続対策が可能です。相続対策を検討の際には選択肢の一つとしていかがでしょうか。
平成28年10月1日 医療タイムス紙掲載