施設入所者の安全管理~ハード面だけでなく~
このところ、福祉施設から施設の玄関施錠管理や離設防止また防犯システム等の設置について多くのお問い合わせを頂きます。
平成28年7月に神奈川県相模原市の障害者施設において、多数の入所者が殺傷されるという痛ましい事件が発生した事により、厚生労働省から都道府県宛に通達「社会福祉施設における入所者等の安全の確保について」が出されたことによります。通達では日中及び夜間の施設の防犯体制、職員の連絡体制・緊急体制の構築および夜間の施錠による防犯体制の徹底や警察等との連携体制構築強化を注意喚起したものとなっております。
お問い合わせの中で特に目立つものは、玄関の施錠管理についてです。今まで、多くの施設は施設からの入所者(特に認知症入所者)の退出・離設を防ぐ退出制限を主眼に対策を講じてきた経緯があります。しかし、今後については、厚労省通達に基づき特に入設制限を強化しなければなりません。特に夜間の施設への入退出設制限および各居室への入室制限も検討が必要になります。
具体的には玄関の施錠管理による入退出制限や、ICカード、暗証番号、指紋照合による入室制限する管理システム、防犯カメラなどの導入を検討します。相模原の事件を反省材料とするならば、さらに権限が付与されたスタッフのみが開錠出来るアクセスコントロールシステム等の設定も検討材料になります。
事件が起こる度に地域と施設にバリアが増えていきます。不測の事態に対応するため、周辺を柵や塀で囲う施設もあると聞きます。まれに発生する想定外の事故・事件の対応策は全体へ波及します。
社会全体に浸透しつつある「地域包括ケア」の目指す方向は、高齢者が住みなれた地域で最後まで暮らすことの出来る街づくりです。地域が地域の中で高齢者を見守っていく体制づくりにあります。施設は本来、自由度が高く、地域に開かれたものでなければなりません。
施設の安全性を確保するため、「安全のためのバリア」を増やしていくことに強い違和感を持ちます。防犯を重視するあまり、施設が閉鎖的にならないようにしなければなりません。ハード面の対応については、安全性は重視しつつ、過度に機械的で無機質にならない防犯システムの開発が急務課題であります。
一方、ハード面の対応に頼りすぎず、警察等関係協力機関や地域住民との連携体制の構築を行ない、入所者が安心して日常生活を送ることの出来る社会システムの構築が第一に重要であります。生活弱者が安心して暮らすことの出来る地域づくりについて、あらゆる立場から検討していく必要があります。
平成28年9月20日 医療タイムス紙掲載