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免震構造と制振構造

 地震に対して安心・安全な建物とするには如何なる構法を採用すべきか。現在の建築基準法の考え方は、①建物が建っている間に何回か遭遇するかも知れない地震に対しては、ひびが入るなど多少の被害は受けるにしても、改修して使い続けられる程度の壊れ方で収まること。②建物が建っている間に遭遇するかどうかの極めて稀におきる大地震に対しては、建物は使えなくなる程度に壊れたとしても、避難する間もないような急激な壊れ方をしないこと、とされています。

 30年以内に60~70%の確立でM8~9の規模で発生が予測される南海トラフ巨大地震は、当然この②に該当します。壊れて使えなくなったとしても人命の安全だけは確保することを基準に様々な構造強度が規程されています。建築基準法は第一条に規程される通り、建築物の最低の基準を定めるものですから、建物の用途、規模により公共性、重要度合いなどを鑑み耐震性を付加します。前回紹介した耐震構造は、建築物を構成する各部材(柱、梁、基礎、床など)の強度を増して、強い地震力に対して耐えて抵抗する、言い換えれば、地震力に対して、真っ向から踏ん張る構造形式ですが、耐震化を行い固く強い構造体とした場合、一般にその建物の固有振動数(単位時間に振れる回数=固有周期の逆数)は大きく(固有周期が短く)なり、早い振動の地震の揺れに対しては、共振を起こし大きく激しく揺れる現象が起きます。固くて強い建物としても地震による被害から完全に逃れることは出来ないのです。

 一方、全く異なる考え方の免震構造は、地震力をなるべく受けなく、文字通り地震の揺れから免れる形式です。多く採用されている免震装置は、4~10㍉程度の天然ゴムの間に芯材として5㍉前後の鉄板を交互に(ミルフィーユ状に)重ね合わせた直径が500~1500、高さ300~500㍉程度の円筒形の台座のような“アイソレータ”を建物と基礎構造物の間に数基設置し、地盤から地震力をゴムが変形することにより吸収し建物に伝えない構造とする方法です。地震に対して揺れることを前提として建物を計画する訳ですから、建物と周囲の地盤との間にクリアランス(一般的に600㍉程度)を確保したり、設備類の配管をフレキシブルに変形できる部材としたり、風などにより振動しないように制振ダンパーを併設したりと、非常に大きなコストがかかります。また、鉛直方向の地震力に対してはあまり効果的でないなどのデメリットもありますが、現時点では、地震対策の構造型式では最も有効な構法であることは言うまでもありません。

 また、耐震とも免震とも異なる構法として上げられるのが制震製造となります。建築物に作用する地震エネルギーを、建築物内部の構造により減衰させたり増幅を防いだりすることで、建築物の振動を低減(制御)する構法です。振動を制御するとう意味で日本建築学会では制振という用語を用います。力学的な形態により様々な型式に分類され、さらに、電力などのエネルギーを加え積極的に制御しようとする方式もあります。東日本大震災以降、パッシブ型(エネルギーの入力を必要としない)の層間ダンパー(粘弾性体や、金属・木材の塑性化を利用したもの)が、コスト的に安価であることから木造戸建て住宅などのへの採用が急増しています。

 次回は、社会的基盤の一つである医療機関として、これからどのような地震対策が最適なのか、地域医療をリードする大規模な災害支援拠点施設や地域医療を支える診察施設など、様々な視点から、新築、耐震改修、免震レトロフィットなどについて考えてみたいと思います。

医療タイムス紙 平成25年7月10日 掲載