建物の地震対策
今回は、建物の地震対策のうち耐震構造について考えてみたいと思います。
地球を覆っている十数枚のプレートのうち4枚のプレートの衝突部に位置する日本列島は、世界でも有数の地震多発帯であり、世界中でこの90年間に900回ほど起きているマグニチュード7以上の地震のうち10%もの地震が日本で起きています。国や日本建築学会では、兵庫県南部地震、東北地方太平洋沖地震など、甚大な災害が発生する度に、耐震基準を見直し、構造物の強度に関する諸々の規程を改定してきました。“どう造れば安全で安心な建物となるか”という大命題に対して、様々な観点から崩壊のメカニズムを分析し、仮設を立て検証し、技術の進歩を取り入れることにより、資材や工法を開発してきました。
今や、耐震や免震、あるいは制震といった言葉が広く流通するようになってきましたが、その意味やメカニズムについて理解することは、専門性も高くなかなか難しいことです。そこで、出来るだけわかり易く概略を説明すると、まず、固くて頑丈な構造として地震の揺れに耐えるよう設計されたのが耐震構造。地盤と建物の間に積層ゴムなどの特殊な装置を付け免震層を設け、地震力を建物に直接伝えないようにしたのが免震構造。建物の内部に何らかのダンパーなどの制震装置を組み込み、地震エネルギーを吸収するのが制震構造となります。近年では、これらの構造形式を複数組み合わせて採用するケースが増えてきています。
建物の用途、規模(面積や階数)、構造種別(木造や鉄骨造、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造などなど)、そして最も重要なコストなどの用件から適切な工法を選択するわけですが、難しいほどの工法、どの組み合わせにもメリット、デメリットがありベストといえる工法はないということです。
「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)においては、建築基準法が定める耐震基準(震度6強に耐えられる構造)の耐震等級1級を基準とし、その1.25倍を等級2、1.5倍を等級3としています。当然、耐震等級が高いほど強度も大きく頑丈に出来ていますから地震に対しては強いことは言うまでもありませんが、ここで、興味深い実験結果をご紹介したいと思います。
国土交通省が協力し、独立行政法人防災科学研究所が運営する「兵庫耐震工学研究センター」で行われた公開実大実験では、耐震等級2を満たしたモデルと、等級2を満たさないモデルの2体に震度6強の地震波を与えその強さの比較を行いました。誰もが耐震等級2の建物が耐震性に優れていると考えていました。しかし、結果は等級2の建物が倒壊したことで、固くするだけの耐震化に大きな疑問符が付けられました。ではなぜ固く造られた建物が倒壊したのでしょうか?答えは揺れのメカニズムにあります。建物も含めて物体には、その形状や大きさ、重さといった条件により揺れに対する固有の周期というと難しいですが、1秒間に揺れる回数=リズムと言い換えると判り易いかも知れません。その周期と地震の波の周期が共振することにより揺れが増幅し、大きな力が働き倒壊に至ったと考えられます。では一体どのような構造とすれば地震に対して安全な建物となるのでしょうか?次回は、免震構造、制震構造について考えてみましょう。
医療タイムス紙 平成25年4月20日 掲載