医療法人の事業継承
前回に引き続き診療所の事業承継がテーマとなります。前回は個人診療所について取り上げましたが、今回は医療法人の事業承継について考えたいと思います。
◇親族への承継
医療法人を承継する場合には、理事長の変更によって経営者の交代を行います。また、医療法人の出資金を異動することにより医療法人の出資者としての権利を引き継ぎます。経営者の交代と出資金の異動は同時に行う必要がありませんので、まず経営者の交代を行った後に出資金を贈与、相続などによって異動させることが多いようです。
承継する医療法人の多くは平成19年4月以前に設立された出資持ち分のある法人が多いと思われます。この法人は長年の良好な経営により出資金の評価が膨らみ、贈与や相続の際に高額の評価となり大きな納税につながるおそれがありますので、出資金の評価をあらかじめ行い、必要であれば前理事長への退職金の支給等による評価を下げる対策が必要となります。出資金の異動はその後に行うことが理想的です。
◇第三者への法人売却(M&A)
診療所を廃業せずに第三者に医療法人格を売却(M&A)する方法です。売却相手は開業を希望する医師や事業を拡大しようとする他の医療機関などが考えられます。この方法は経営者が変更となるものの、診療所が継続して経営されるため、スタッフの雇用や患者さんの診療を引き継いでもらえる可能性があります。
通常、診療所の承継というと親族への承継を想定し、後継者がいなければ廃業のみを考えがちですが、前号にも記載しました第三者への賃貸、売却、また今回取り上げた法人売却といった選択肢も積極的に検討することをお勧めいたします。
先生方が地域医療のために長年守り続けた診療所を今後も地域の医療機関として存続させるために、また、診療所という財産を先生方の勇退後の生活の安定のために活用したいものです。
医療タイムス紙 平成24年11月20日 掲載