これからの認知症ケアのあり方
東日本大震災で大きな被害を受けた岩手・宮城・福島の3県において認知症高齢者が増大しているとの報道がありました。宮城県石巻市で、医師等でつくる協議会が被災者調査を実施したところ、65歳以上の347人のうち45人(約13%)から物忘れ等の症状があるとの回答があり、初期の認知症と思われる症状がある事が分かったとのこと。住環境の変化やコミュニティーの崩壊が大きな要因になっていると思われます。
地域包括ケア研究会資料にある「地域ケア を支えるサービス提供体制のあり方」によると、来る2025年には認知症患者数が323万人に達すると推定されており、これに対応する為に2025年のあるべき姿がイメージされている。それは、「生活圏域ごとに、グループホームや小規模多機能サービス等が整備され、これら保険サービスにより地域での生活も維持可能になっている。また地域には認知症サポーターが普及し、自治会やNPOが実施する見守り・食事支援・生活支援などの日常生活支援が受けられる体制がつくられている」というものである。医療や介護等保険制度にのみに頼らない住民主体のサービスやボランティア活動(互助)やセルフケアの取り組み(自助)が地域の中で有機的に機能することが重要であると述べている。圏域の認知症高齢者を見守る地域コミュニティーの形成こそが認知症ケアの大前提になるという事です。
県内に「認知症高齢者と共に住み続ける事の出来る地域づくり」をテーマに取り組みを進めている医療法人があります。
「認知症を含む高齢者が生まれ育った地域で安心して最後まで暮らすためには、医療介護の提供のみならず高齢者のための住宅の整備が必要である」と云うのがこの取り組みを推進する医療法人副理事長のお考えです。まずは昨年地域拠点として、小規模多機能・グループホーム・デイサービスそれに地域交流センターによる複合型ケアセンターを開設しました。現在その隣接地へサービス付き高齢者向け住宅(25床)と高齢者のための戸建て賃貸住宅(5棟)の建設が進められています。サービス付き高齢者向け住宅はグループリビングと呼び、認知症高齢者の生活が維持できる様に小単位のユニットケアを行う予定です。併せて二階には居宅支援事業所・訪問介護・訪問看護等の居宅サービス部門を併設し、当施設のみでなく一般在宅への居宅サービス提供を効率的に推進する計画です。もちろん必要な医療は、クリニックから在宅診療として提供される仕組みです。特筆すべきは併設される高齢者向けの戸建て賃貸住宅の試みです。特に高齢ご夫婦のみで老々介護の生活を強いられる世帯には最適な賃貸住宅です。要介護であれば多様な介護保険による在宅サービスを受ける事が可能ですし、自立高齢者であれば地域交流スペースを活用し、介護予防運動を行う事も出来ます。これにより本来の生活の維持が可能になります。同法人においては、別の地域にも同様の取り組みを展開していく計画とのことです。
この様な拠点づくりがなされ、そこに自助互助による地域見守り体制が構築されていく事により、認知症高齢者が安心して住み続けることを可能にするのではないかと思います。
医療タイムス紙 平成24年7月20日 掲載