カナダで学んだ福祉のあり方
平成23年10月2日より9日まで「カナダ木造福祉施設視察ツアー」に参加いたしました。
カナダにおいても少子高齢化は進み、特に高齢者の増大は日本と同じく深刻な社会問題になっています。日本と同じく高齢者人口がピークになる2025年から30年を意識して医療福祉制度の改革を行っているところです。介護保険は無いものの、医療保険については国民皆保険制度が敷かれ、歯科を除く医療費は基本的に無料で提供されます。その他年金や家族手当などの社会保障システムは充実しています。しかし病院の病床は削減化され、平均入院日数も日本の半分以下となっており、在宅ケアは必須の課題として捉えられています。またホームドクター制が敷かれ居住地域にある医師と契約し患者は継続的に医療提供を受ける仕組みになっています。
この様に病院・施設ではなく在宅における医療や介護の提供が促進されており、高齢者のための住まいは多種整備されております。
今回視察した中で印象的だったのが「イリムビレッジ」です。キャンパスケアと呼ばれる(アメリカではCCRC)高齢者のための住宅の複合施設です。一つの敷地の中に自立から重介護まで介護度に応じて住み続ける事を可能にしています。インディペンデントリビング(自立)アシステッドリビング(軽介護)レジデンシャルケア(重介護)とそれぞれの施設が敷地内で有機的に複合し、状態が変化した場合の住み替えが可能です。カナダにおいては高齢者住宅の利用料は入居者の税引き後所得の7割と決まっており無理なく入居が可能です。また驚くべきシステムとして分譲型のインディペンデントリビングの退去時買取り制度があります。退去時にはイリムが取得価格の95%で買い取るという画期的な制度になっています。
他にもビクトリアで観た「シニアアクティビティーセンター」は今回の視察の中で最も興味深いものでした。同センターは高齢者の自主運営による介護予防健康づくり施設で、中には木工室、園芸室、ビリヤード場などがあり、自発的に趣味や教養を高める場となっています。施設は市の援助や市民からの基金によって造られ、運営も200人を超えるボランティアによって支えられています。
わが国においても団塊が後期高齢者になる25年を目指し、自助・互助・共助による「地域包括ケア」を今後あるべき社会福祉のあり方と位置づけているが、まさにその完成形を観た思いがしました。
今回のセミナーの本来の目的は福祉施設における木造耐火建築・ツーバイフォーの視察・研究であったが、むしろ、これからの福祉のあり方・社会福祉の根底について考えさせてもらう機会であった気がします。
今回どの施設に行っても暖炉を囲みおしゃれをして楽しそうに談笑する高齢者の姿を見ました。今もその笑顔が目に浮かびます。
医療タイムス紙 平成23年11月1日 掲載