医療の相続対策を考える 相続対策(財産分割)
ある医療法人の理事長からこんなご相談を受けたことがありました。「この間、亡くなった父(先代理事長)の件ですが、先日葬儀を済ませて一段落していたのですが、姉のご主人が連絡をしてきまして、姉にも父の財産を引き継ぐ権利があるので財産分与の件で相談したいと言ってきたのですが、どうすれば良いでしょうか?」
ご相談してきた理事長にはお母様とお姉さんがおり、この3人が先代理事長の財産を引き継ぐ権利を持っていました。お姉さんは現在県外の一般企業に勤務しているサラリーマンに嫁いでおり、ご家族でマンションに住み住宅ローンを返済していました。先代理事長が亡くなられた際には遺言書は見当たらず、これから遺された財産をどう分けるか協議をしようかと考えていらっしゃった矢先の事でした。家督相続という習わしがある地域であり、お姉さんは嫁いだ身でしたので、理事長は暗黙の了解で当然、財産は全て自分に引き継ぐ事は了承してくれていると思っていたので驚いてしまいました。
財産は、医療法人の出資金と不動産ばかりで、簡単に分割して渡せるものではありません。お姉さんのご主人も口を挟んできたこともあり、話し合いは平行線をたどり最終的には司法の判断を仰ぐことになりました。結果は、法が定めるとおりの「平等」に分割するよう判決が下り、理事長はお姉さんの相続分を現金で支払い、その分を個人で借金をすることになってしまい、その後、理事長とお姉さん夫婦とは絶縁状態となってしまいました。
今回一番問題だったことは、先代理事長がご存命の際に相続に対して準備を怠っていたことにあります。相続(争族)のトラブルは財産が少なかろうが多かろうが全ての方に起こりうる可能性があります。トラブル回避として一番確実な方法は、遺す方に遺言書を作成していただくことです。遺言書には大きく分けて自筆証書と公正証書がありますが、公正証書での遺言書作成をお勧めいたします。作成に費用がかかりますが、ほぼ確実に遺言を実現することができます。また、生前贈与制度を活用して長期的な視野で財産を引き継いでいただくのも一考です。大切な事は財産を受け継ぐ側が相続人の数など現状把握をし、日頃からコミュニケーションを円滑にしておくことです。また、遺言書の作成よりお勧めし易い「エンディングノート」等をプレゼントしてみる事もご検討してみてはいかがでしょうか?
医療タイムス紙 平成23年2月20日 掲載