環境との共生
今回は、診療所建築における「環境との共生」についてお話してみたいと思います。「地域に住まう人々の健康を守り、地域に安全と安心をもたらす」これが診療所の重要な役割である事は云うまでもありません。
最近パッシブハウスとかパッシブデザインという言葉を耳にする機会が増えたように思います。パッシブハウスとはドイツで確立された省エネ住宅スタンダードを いいます。いわゆる太陽熱を利用した高気密・高断熱の省エネ住宅です。
最近では、このパッシブ(受ける)という言葉がもう少し広義な意味で使われる様になってきています。建築をする際、周辺にある水、熱、光、風など自然環境全般をどう受け入れ、どう活かすかを検討することです。云うならば出来る限り機械などに頼らず、周辺の環境や自然を取り入れ快適な空間を創るかの検討です。この事は診療所建築にも生かせる点が多くあります。
太陽光や太陽熱の利用についてはこのところ随分汎用化されてきていますが、 他にも周辺に利用可能なエネルギー源は多くあります。例えば、井戸水の利用は大いに検討する価値があります。水質によって利用の仕方も異なりますが、水を相当量使用する病院・診療所・福祉施設等は建築後の維持コストの削減にかなり有効です。屋上へポンプアップした井戸水を張り夏季における屋根の遮熱する利用法もあります。建築予定地の隣に川が流れていれば、そのせせらぎの音を活かすことで涼しさの演出も可能になります。他にも地中熱や風力の利用、またある樹木を活かし遮光や緑化などが検討できます。
この様に「パッシブ」を取り入れることにより、単なる省エネに留まらず、居心地の良い癒しの空間創りも可能になります。しかし初期コストも掛かりますから、費用対効果を十分な検討が必要です。10年から15年間程度で回収可能かどうかが一つの目安ではないでしょうか。
今や「パッシブ」は受身の言葉ではなく、積極的に環境と関わり・共生していくという前向きな言葉として理解されています。建築の検討の際にも十分に対象を観察し、広い視野から柔軟に考えることが必要です。
平成23年3月10日 医療タイムス紙 掲載